今回より30年以上の趣味読書より、生涯に一度は読むべき、おすすめの本について、紹介していきたいと思います。まず最初は SHOE DOG 靴にすべてを。です。世界最高のブランド ナイキを創った男 フィル・ナイト 著です。著者は米国オレゴン出身で、オレゴンの大学時代、長距離の陸上選手で、その時使用したシューズの中で、とても気に入ったシューズ、なんと日本製を輸入して米国で販売するあたりから、物語が立ち上がっていきます。その大学時代に出会った、コーチ、仲間が、その後著者の人生、会社へ大きく影響していきます。
私も驚いたのですが、ナイキの前身はブルーリボンという会社で、なんと日本の鬼塚タイガーのシューズを輸入して米国で売っていました。物語は終戦後ほどない日本に著者が訪日し、神戸にある鬼塚タイガーの本社に乗り込み、米国での販売権を取得し、輸入して米国で販売するあたりが、本の最初の盛り上がりとなります。日本はまだ終戦間もなく、労働賃金は安く、米国の工場的な役割を担っていた時代です。著者の一貫して靴にかける情熱はすさまじく、日本の靴工場も何件か訪問し、その勤勉さと、清潔感に感動しています。
鬼塚タイガーの本社にて、伝説の経営者 鬼塚氏、とその部下と交渉し、米国での販売権を取得します。しかし、米国への輸出は不誠実で、著者が発注したサイズ、製品をなかなか予定通り日本より送ってもらえません。しかし、製品は良く、いつも欠品が出るくらい、アスリート中心に人気がでてきて、年々倍々ゲームで売り上げが増加します。その売り上げをほぼすべて、より多くの人に素晴らしい靴を提供するとのポリシーのもと、日本よりの製品輸入に充てるという事を繰り返します。そのためキャッシュフローのほとんどないような経営が続き、いつ破綻してもおかしくない状況が続きます。
そのため、米国の地元の銀行を含め、融資には後ろ向きの姿勢が多く、輸入量に制限がかかります。その状況を打開したのが、これもまた日本の企業、商社の日商岩井です。前向きな融資をはじめ、経営のアドバイス、鬼塚より独立した後の、日本の靴の製造先紹介、輸入全般を含め、日商岩井がなければ、今のナイキは到底存在しなかったと思われます。著者もそのことには深く感謝をしており、日本人としてナイキにとても親しみを感じました。また、鬼塚タイガーとの訴訟問題では、気の弱い日本人のイメージを払拭するくらい、ダークでタフな鬼塚社員との米国法廷闘争が繰り広げられ、読みごたえがありました。
靴にかける情熱、その主人公に集まる、同志、その情熱が今のナイキを形づくっていると思います。現在、著者は80歳代後半で、世界で100位以内に入る大富豪となっています。過去の回想で、物語は進みますが、一つの事にこだわり、情熱をかけ続けることは、これほども尊いと痛感させられます。主人公は今の大富豪が幸せではなく、あの情熱を傾けた、若かりし日を一番幸せと感じていたことが、ひしひしと文脈より伝わってきます。かなりボリュームのある本ですが、読み進めるほどに面白く、一生に一度は読むべき本としておすすめします。

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